この命のすべてで、君を想いたい

診察室を出ると、白い廊下がぐらぐら揺れて見えた。


足元が重くて、意識が遠くなる。


外に出ると、冬の冷気が頬を刺す。


スマホが震えた。


【空:今日は会えない?明日から学校だけど、その前にちょっと声聞きたいな】


雫は画面を見つめ、
涙のかわりに喉が熱くなる。


【ごめん、今日は少し疲れたから、また明日ね】


本当は今すぐ会いたかった。


空の胸に飛び込んで、全部こぼしてしまいたかった。



でもそれをしてしまったら、きっと離れられない。



だから雫は、冷たい指でスマホを閉じた。




帰り道、世界のすべてが普通の顔をして動いていた。


そのことが一番、怖かった。


家に着くと、扉を閉めたまま、ゆっくり床に座り込む。



心臓の鼓動だけが大きく響く。


「……やだ……こんなの……」


声にならない声で、雫は唇を震わせた。



涙は、なかなか出なかった。
泣いたら、全部が現実になってしまう気がして。




ただ静かに。

今日、
雫の未来が終わりを告げたことだけが
部屋の中で冷たく響き続けていた。