その言葉で、雫の脳裏に空が浮かぶ。


冬休み、幸せだったあの時間。

笑いながら歩いた帰り道。

手を繋ぐだけで嬉しかった毎日。


でも、

名前を口にしたら、すべてが壊れる。


空の未来を奪うことになる。





だから雫は、ゆっくり首を振った。


『……今日は、帰らせてください。
少しだけ……自分で整理したいです』

医師は強く反対した。



「本当は帰すべきではありません。水瀬さん、急変のリスクは高いんです。数日……いえ、明日でさえ保証できません」



でも雫は、震える声で言った。



『でも、お願いします……今日は帰りたいんです。突然すぎて……考えられなくて……』



長い沈黙のあと、医師は深く息を吐いた。



「……わかりました。ただし、何かあればすぐに救急に来てください。そして……できるだけ早く入院の準備を」