「あ、昨日の。」

雫が小さく呟いた。

「あ…えっと空くん?昨日はこれ、ありがとう。」

彼女が傘を差し出す。
その指先が名残惜しそうで、空は軽く手を添えた。


『え、でも……気に入ったんでしょ。あげるよ。』

それはほとんど無意識だった。
昨日の彼女が、少しでも笑ってくれたらいいと思っただけ。


「でも…昨日借りたばかりなのに…」

『うん、でも似合ってたし、雫ちゃんに持っててほしいから。』


照れくささを隠すように冗談めかして笑うと、
雫は少しだけ表情を緩めて、
小さく「…ありがとう」と言った。



その控えめな笑顔に、胸の奥がまた温かくなる。
空は、自分でも驚くほど自然に思っていた。

──この子と、もっと話してみたいな。