「雪月ー!」
塾の授業が終わり、筆箱と問題集を黒いトートバッグに詰めていると、後ろから風花が飛びついてきた。
天然パーマで色素の薄い彼女の髪が、私の肩でぴょんぴょんと揺れる。
「急に飛びついてこんといてよ、びっくりするから」
「えへへ、ごめん」
ちっとも悪びれていないような表情で軽く舌を出す風花の肩を小突く。
「反省してますかー?」
「ちゃんとしてるよー。あ、今週もアレかます?」
「かまそー。」
靴を履き替えて外に出ると、鋭く寒い空気が私たちを包み込んだ。
「さっむ…」 白いもふもふの手袋に包まれた手をこすり合わせながら風花が白い息を吐き出す。
「そうやな。」
自分たちの家とは反対方向に歩いていくのには当然訳があった。
「雪月はどうするの?いつも通りのキャラメルマキアート?」
「うん」
「じゃああたしも、いつものトリプルエスプレッソ」
風花のふわふわした愛らしい見た目とは想像もつかないが、彼女は苦いコーヒーを飲めるのだ。
私はというと、カフェオレにガムシロップをたっぷり入れないと飲めない。そこもまた正反対だ。



