「暇だなぁ…」
塾のワークのFocusⅡの端っこに猫の落書きをしながらあくびを噛み殺す。
「月島。三角関数の加法定理の公式①を答えろ」
ぼーっとしていたせいで、先生の話を聞いていなかった。
私は急いで該当のページまでワークをめくり、公式①を読み上げた。
「sin(𝛼+𝛽)=sin𝛼cos𝛽+cos𝛼sin𝛽、です。」
長ったらしい公式を細切れにして読み上げると、「正解だ。」と先生の威圧的なOKをもらえたのでほっと息をついて席に座る。
目にかかった前髪を振り払おうと頭をふるふると振ると、右にいる私の親友―早乙女風花が困ったように眉を下げて笑った。
私も口角を上げて風花に笑いかけてから、すぐに俯く。
猫の落書きの横に、教卓で威圧的な口調で勉強を教えている禿げ頭の小太りな男性教師の変な似顔絵を描く。
私のワークに生まれた禿げ頭の男性教師に思わず笑いが込み上げる。
ぷっと笑うと、「月島、笑うな!」と男性教師からおしかりが飛んできた。
「すみませーん」
適当に謝罪すると、男性教師は「授業に戻るぞ」と無感情な声でホワイトボードにペンを走らせ始めた。



