「みてみてー。これハゲ山の似顔絵。暇すぎて授業中ずっと書いてた」

『ハゲ山』というのは、私と風花が通う塾の先生のあだ名のことだ。実際の苗字と見た目を掛け合わせている。 

2人で風花の部屋に鎮座するふわふわのラグに寝転がりながら、私は数Ⅱのワークを開いて先ほどの先生の落書きをみせる。

「やわ、めっひゃひへるふぁん」

コンビニで買ったポテトチップスを口いっぱいに詰め込みながら、風花がもごもごと何かを言った。

「飲み込んでからしゃべりーや」

「…ごめんごめん。めっちゃ似てるね、ハゲ山。」

「結構自信作w」

ポテチの塩に汚れた指をそっと舐めると、「こらー!手を洗いなっさーい‼」と風花がわざと頬を膨らませて怒るようなそぶりを見せた。

「ごめーんなちゃーい。でもさ、ポテチって指が一番おいしいやん。」

「それはそうだけど、せめてティッシュで拭いて」

風花が立ち上がり、ワゴンの横にかかっていたティッシュを1枚抜き取って私に差し出してくれた。

「はーい。」

ポテチの塩で汚れた指をティッシュで拭いていると、「とりあえず私お風呂行ってくるね」と風花が立ち上がってクローゼットの方まで移動した。

「はーい。あ、アイス冷凍庫に入れるのすっかり忘れてた」

「ちゃんと入れといてー。お風呂行ってくるね」

風花がいなくなった部屋は、だだっ広くてなんとなく居心地が悪かった。

ごろんとラグの上に寝転がって木の天井の木目を見ていると、部屋に染み付いた風花の匂いがわずかに鼻腔をくすぐった。