お嬢様は溺愛に溺れている

そこで私が入学する前にさかのぼる――。


『あのな、心。学校には危険がいっぱいなんだ』


『そうよ、心。あなたに何かあったら私たち生きていけないわ……!』


生きていけないって……ママってば大げさなぁ……。


『そうやって笑ってる姿も可愛いわ~でもね、そんな姿を高校の男どもに見せちゃったら、もう通わせられないわ……!』
  

『そうだぞ、心はみんなの宝物なんだ……!そして、一番パパが愛してるんだよ……!」


前からパパ、右左からママとお兄ちゃん。


なんだか、責められている気分……。


『何言ってるのよ……!私よ……!』


『いや、この俺に決まってる……!』


なんかにらみ合ってるのは気のせいですかね……?


『で、でも……!私は楽しく王子様を見つけたいの……!』


なんてったって高校生!王子様を見つけて恋をしてみたい……!


『んもぅ、可愛い~!愛してるわ、こころん……!』


『そんなこと言って……!心配しかない……!』


専属のお手伝いさんをつけてくれるつもりらしいけど……、私はもっとJKをしてみたい…!外の世界が知りたい……!


『ね?お願い、パパ……!』


おねだりをしてみる。


んっと言葉を詰まらせて固まるパパ。『リリンヌ』の社長のこんな姿をみたらみんな拍子抜けしちゃうだろうな…!


『可愛いな~心。仕方ない………!ただし、ものすごく心配だから、――』


『失礼します』


少し低めの声が響いたと思えば開かれるドア。


そこに立っていたのは――一般的には美形と言われそうな男の人だった。


『こいつに彼氏役を頼む』


か、彼氏役……!?私は一瞬固まってみた。そして、彼に視線を移す。


見るだけで倒れてしまいそうなほど、かっこいいスマイル……。


美の暴力だ……!


『ど、どういうこと……!?』


やっと声が出せるようになる。


『こんなに可愛い心を一人で通わせるなんて、ダメだ……!だから、せめて彼氏役を……!』


『そうよ、心!あなた、くれぐれも心に手を出すんじゃないわよ?』


そういったママが彼をにらみつけた。


一方お兄ちゃんも――同様ににらんでいるような……。


『はい、もちろん』


いやいやいや……ついていけてないの私だけ……!?


『ま、まって……!私、一人で学校生活したいし、彼氏役なんてやだ…!絶対に学校で王子様見つけるんだもん……!』


そういうとみんなが顔をしかめた。


『ダメよ、ダメダメダメ……!』


なにもそこまで否定しなくても……!夢くらい見させてよ……!確かに私と王子様なんて釣り合うわけないけどさ……。


『悔しいが、ものすごく悔しいが、頼んだ。くれぐれも心に手を出すんじゃない。分かってるよな?』


「もちろんです」と相変わらずニコリと効果音が付きそうな勢いで笑う彼。


なんで…みんな納得しちゃってるの……!私は平穏なJKがしたいのに……!


『そういうわけで、心。くれぐれも気を付けて通うんだぞ……!』


『そうよ、こころん……!心ちゃんみたいな美女、どこで襲われるかわからないんだからっ……!』


いや、まってまって……!なんでそうなってるの……?