Existence *

病院を出た後、車に乗り込み、俺はスマホを手に取りコールする。

暫くなり続ける電話を切ることも出来ず、ただ俺は鳴り続けるスマホを耳から離すことはなかった。


「…はいっ、」


慌てて出た実香子の声に俺は一息吐いた。


「実香子?…仕事中だった?」

「あ、うん。珍しいね。どうしたの?体調悪いの?」

「いや、そうじゃなくて。ちょっとだけ話せる?今からそっち行くから」

「あー…うん、どうしたの?」

「お前には話しとこうと思って。会って話したい」

「わかった。着いたら連絡して」

「あぁ」


実香子にだけは伝えとかないとって思った。

もう実香子はこの病院には居ないけど、お母さんの事を気にかけていた実香子には話さないとって、そう思った。


実香子の病院に着いた頃には、もう既に外は真っ暗になっていた。

もう一度電話を掛け、静まり返った大広場のロビーのソファーで俺は待つ。


「翔くん、ごめん。お待たせ」


ナース姿の実香子が慌てて駆け足で俺の前まで来る。


「ごめんな、忙しいのに。今日、夜勤?」

「うん」

「時間大丈夫?」

「大丈夫。それよりどうしたの?」

「美咲のお母さんがさ、救急車で運ばれて今日手術したんだわ」

「え?手術って、」

「癌の再発。余命宣告2か月」

「え、ちょっと待って。え、2か月って、何でそんなことになってんの?元気じゃなかったの?」


実香子は取り乱したように目を泳がせ、動揺を隠しきれないまま俺の隣に腰を下ろした。


「病院に行ってなかったみたい」

「え、なんで?」

「何でって言われても…」

「誰も気づかなかったの?ちょっとした変化に誰も気づかなかったの?」

「最近会ってなかった。美咲が帰ってきた事に安心して、お母さんに会ってなかった。だから病院の事も何も聞いてなかった。むしろ行ってると思ってた」

「思ってたって…」

「ごめん。俺がもっと気にするべきだったと思ってる」


今更そんな事言ったって、どうにもならないことくらい分かってる。

だけど、俺が――…

ホストと言う仕事に無我夢中になって、辞めた後もその後の事で頭がいっぱいになってた。