Existence *

「…明日、手術するってさ」

「……」

「美咲、明日――…」

「手術したって助からないんでしょ?」


目を瞑ったまま、泣きそうな声で美咲は口を開く。


「生き延びる生命は増えるって」

「でも、だけど!死んじゃうんでしょ、ママ…」

「……」

「だったら手術する意味なんて何もないじゃん」

「つか、それは違うだろ?」


何を言ってんだと思う美咲の身体を俺は揺する。


「だって…」

「生き延びる為にするんだろ?なのにそんなこと簡単に言うなよ」


苛立ったまま美咲に声を荒げてしまった。

そんな俺に美咲は何も言わずに立ち上がり風呂場へといく。


その後ろ姿を見つめながら一息吐き、ソファーに仰向けになり目を閉じた。



…―――

「翔?…百合香さん、手術するって。病院に行きなよ」

「はぁ?俺に関係ねぇだろうが」

「何言ってんの?あんたの母親でしょ?」


お袋が癌の手術をすると聞かされた時、俺は他人事みたいに優香に言い放った。


「母親ってか?笑わせんなよ。何が母親だよ、あんな奴」

「ちょっと、その言い方は無いでしょ。アンタの事どれほど大事にしてたか分かんないの?」

「分かるわけねぇだろうが!大切に大切に育ててきてもらったお前とは違うっつーんだよ、」

「……」

「あいつはずっと家に居なかった。俺が小さい時からずっと仕事仕事っつって、ほぼ居なかった。なのに母親ってか、マジ笑わせんなよ」

「アンタの為に百合香さんは必死で頑張ってた。あんたが生きがいだってそう言ってた」

「知るかよ、んな事」

「あんたは分かってないよ。どれほど大切に育ててもらった事が」

「分かんねぇよ、んな事。何が大切に育ててもらった?…は?ずっと家に居ねぇのに大切ってか?」

「アンタが家に帰らないから分からないだけでしょ!?百合香さん、最近はずっとアンタの事待ってた!なのにアンタは家に帰ろうともしない」

「今更母親ずらすんなよ!何が最近だよ、…んな事頼んでねぇよ」

「百合香さん、待ってる。病院に行きなよ」


思い出したくもないのに思い出してしまった過去。

奥底に沈んでいた過去が今になって殻を破りだしてきた。


額に流れてきた汗を拭い、俺は重い身体を起し、俯いたまま息を吐き捨てた。