Existence *

「はい」

「翔くん、この前言ってた書類、貰ったからさぁ、また取りに来てよ」


電話越しから聞こえてくる沙世さんの声。


「あぁ、わかった」

「いつ来る?」

「わかんね。そのうち」

「昼間でしょ?」

「昼間っつーか、沙世さんの店が開く時間帯」

「15時ごろからだったら居るから、その時間にまた来てよ」

「わかった」

「なんか欲しいものとかある?食べたいものとか」

「なんもねー…トマトジュースとかいらねぇからな」

「あら、そうなの?」

「いるかよ」


フフっと笑った沙世さんの声。

電話を切った時、俺は諒也の家まで車を走らせた。


着いて車を停めて、一瞬躊躇った。

行こうか、どうしようかと。

行ってしまって香恋に出くわしてしまったら、絶対に帰れないと思った俺はスマホを取り出し美咲に掛ける。


暫くなり続ける着信音。

気づいてないんだろうか。と思った時、「はい」美咲の声が耳に伝わった。


「今、諒也んちだろ?」

「うん」

「もう家の前」

「えっ、そうなの?」

「出てきたら居るぞ」

「わかった。すぐ行く」


電話を切って、暫くすると美咲がこっちに向かってくる。


「楽しかった?」


助手席に乗り込んだ美咲に声を掛けると、美咲は頬に笑みを作った。


「うん」

「良かったな」

「香恋ちゃん、めっちゃ可愛いね」

「香恋ねぇ…行こうかと思ったけど出くわしたら帰れそうにねぇから辞めたわ」

「あはは。香恋ちゃん、ほんと翔の事すきだね。彼氏だと思ってるよ」

「いやいや、俺はお前の男だからな」

「もう、さらっと言わないでよ」


何故か照れ臭そうに笑う美咲は俺から顔を背ける。


「は?なんで?間違っ事、言ってねぇし」

「そうだけど…」

「可愛いね、美咲は」

「もう営業トーク辞めてよ」

「してねぇわ」


俺の言葉にクスクス笑う美咲に俺も頬を緩めた。

美咲が笑う日常が続けばいいとそう思ってた。


この5年の空白を取り戻すように美咲と居たいという気持ちは何も変わらない――…