Existence *

「もう行くし、美咲は寝てな」


立ち上がりながらタバコを消し、椅子に掛けていたスーツの上着を手に取り身に纏う。


「…どした?」


呆然と立ち尽くして俺をジッと見つめて来る美咲に俺の視線が止まる。

不思議そうに見つめて来る美咲は「あ…、いや…」そう曖昧に呟いた。


「ん?なに?」

「スーツ…」


小さく呟かれた美咲の声。

スーツ?

スーツが何?って思いながら美咲を見つめると、


「あぁ、そっか」


思い立ったように俺は口に出した。


「仕事、変わったから」


続けて言葉を口にする俺に美咲の表情がパッとかわる。

そか。俺のスーツ姿は美咲が日本に帰って来てから一度も見せていなかったもんな。

また夜の仕事か、なんかだとか思ったんだろうか。


「あー…、そう言えば葵から聞いてた」

「あぁ、葵ちゃんね」


軽く微笑んでテーブルの上にあるタバコとライターをポケットに仕舞う。


「行ってらっしゃい」


玄関に向かう背後から美咲の声が飛び、俺は振り返って頬を緩めた。


「行ってきます」


そう言って一度出た俺は思い出したかのように再び戻る。


「どうしたの?」


戻って来た俺を不思議そうに見つめる美咲に、キーケースから鍵を取り美咲に差し出した。


「今、持ってねぇだろ?」

「うん」

「今日はこれ使いな」

「ありがとう。今日、取りに行ってくるから」

「あぁ」


再び出た俺は仕事場まで車を走らせる。

考える事が色々ありすぎた。


考える事と言えば、この先の事で。

正直、あやふやなまま自分の思いを固めていた。


自分のマンションの事。

美咲の家の事。

俺の仕事の事。

美咲が職を探す前に…

中途半端なまま伝えたくはなくて。

ちゃんと全てを固めてから俺は話したい。


美咲がどう思うかは知れないが、

美咲にも自分の考えや気持ちがあるだろうけど――…