Existence *

いつの間にか浅い眠りに落ちていた。


「…あぁ、」


微かな物音で目が覚めて寝ていたんだと気づく。

深く息を吐き出し、気だるい身体を起す。


「お酒って…」


不意に聞こえたその声に俺は視線を向ける。


「うん?」

「お酒って、飲んじゃダメなんでしょ?」


美咲の視線はテーブルに向かっていて、そこにある空き缶を見つめていた。


「あー…ダメって言うか控えろって感じ」

「控えてんの?」

「程々に。つか、風呂入るわ」


眠気を覚まさないと頭が回らない。

立ち上がって、美咲の横を通りすぎ風呂場に向かった。


つか、ほんと相変わらずだな。

俺の身体の事を絶対に聞いてくるところ。

出会った時から何も変わってねぇわ。


湯船に浸かり天井を見上げ軽く息を吐き捨てる。

思う事、考える事は美咲の事だけで、アイツの事がただ気になる。

来たくなかったと言われればそれはそれで終わりで、連れて帰ろうとも思う。


でも、だけど離れられないのは俺の方だった。


風呂から上がり眠っている美咲の隣に身体を預ける。

そのまま眠りにつこうとした時、「…翔?」暫くして聞こえた美咲の声に閉じていた目を開けた。


「あれ?起きてた?」

「うん」

「どした?」


美咲を背に向けていた身体を美咲の方向へと変える。

俺に背を向けている美咲はシーツを深く被り、身を縮めていた。


「鍵…家にあるの。マンションの」

「うん」

「ここに来て決めてって言ってたでしょ?それって何?」

「あー…それか」


思い出す様に呟き、フッと俺は笑う。

ってか、もう捨てたし。

もう必要ないと思って破り捨てた婚姻届けの用紙。


「もういい」


続けてそう言って、小さく息を吐き捨てた。

必要ないと言うと嘘になる。

今でも美咲が好きで、こうやって一緒に居ると更に離れたくなくなる。


でも、俺は美咲の気持ちを聞けてはいない。

一歩的な俺からじゃなくて、美咲の言葉が聞きたい。