Existence *

「…美咲?」

「……」


膝を抱えて俯く美咲は口を開くことなく、ただずっと俯いたままだった。


「どした?」


美咲に触れようと手を伸ばした瞬間、


「…わた…し、」


小さく零れ落ちる声に俺の手が引き戻る。


「うん?」

「…私、行けなかった」

「うん」

「分かんないけど、行けなかったの」

「うん」

「多分、きっと…翔の所為」

「は?また俺かよ」


思わず苦笑いで言葉を交わす。

もう、俺の所為って周りから散々言われたから、なんだっていい。

ほんと傷つけたのも、辛くさせたのも全部俺の所為だから、なんだっていい。


ごめん。って、続けて言おうとした時だった。


「何で…来たのよ」


美咲の声が震えてた。

その小さな掠れる声が波の音で消されそうになる。

何で来たって、答えは一つしかなくて。


「会いたくなったから」

「……」

「美咲に…会いたくなった」

「……」


ずっと、ずっと会いたいと思っていた。

手を伸ばし、美咲の頭を撫ぜた後、抱え込むようにしていた美咲の手をギュッと握る。


「冷て…風邪ひくぞ。こんな所まで来てどうやって帰るつもりだったんだよ」

「…始発…」

「つか始発までにまだまだ時間あんだけど」

「…うん」

「うん、じゃねぇし。マジ寒いっつーの。帰ろ?…美咲」

「……」


真夜中の海辺の空気がやけに冷たかった。

身を縮める美咲の手が思ったよりも冷たくて、俺の体温が美咲によって奪われていく。

立ち上がると同時にグッとその腕を引き、抱きかかえるようにして俺は美咲の身体を立ち上がらせた。


俯く美咲は少し鼻を啜るとともに、手の甲を頬に滑らす。

…泣いてる?

美咲を覗き込むも、俯く美咲の表情が辺りが暗い所為で何も見えなかった。