Existence *

―――…


「…くん、翔くん」


揺すられる身体。

その小さな振動で眠っていた目を開ける。


ゆっくり瞼を開けると、目の前に実香子が居て困った顔で俺を見つめた。


「…どした?」

「翔くん、寝てるからどうしようかと思ったんだけど」

「なに?」

「もう、私帰る時間だから」

「あぁ…いま何時?」

「19時」

「そう。お疲れ様。気を付けて帰れよ」

「うん…って言うか、その話じゃなくて」

「なに?」


まだ冴え切ってない瞳で実香子を見つめ、一息吐く。

怠い身体を起し、ベッドの角度を変え、背を付けた。


「これ、預かったんだけど」


実香子は持っていた白い封筒を俺に差し出す。

その封筒を受け取らない俺を見かねて、実香子は目の前のテーブルにそっと置いた。


「なに?」

「おか…ね」

「は?金?…誰から?」

「誰…とかは分からない。私が受け取ったんじゃないから。女の人からって言われた」

「女?」

「そう。スラッとした髪の長い女の人って言ってた。同僚が綺麗な人って言ってたよ」

「……」

「名前聞いたみたいなんだけど、見れば分かりますって言って帰って行ったって」


顔を顰めている実香子から視線を外し、俺は目の前の封筒を掴む。

少し厚みのある封筒。

その中を除くと、ぎっしりと詰め込んである1万円札の束。


それを見てなくても一瞬で分かってしまった。

俺にお金を返してくる奴なんて一人しか居ない…


そう、美咲しか。


「何時ごろ?」


お金から視線を実香子に移すと、考える様に実香子は更に眉を寄せた。


「えっと、私が午後診から戻って来た時だから15時くらい?…かな」

「15時…」


あの時間は確か、茜が居た時間。

だから美咲は帰ったのだろうか。

ま、そうなるのも当たり前の事か。