美咲は俺と居る5年後を想像出来なかったかも知れないが、俺はその希望だけを願ってずっといた。

夢でもなんでもいい。

美咲と出会えて、美咲に触れられたのであれば、もう夢でもなんでもいいと思った。


何度も重ね合わせていた唇を俺はゆっくりと離す。

真上からジッと美咲を見つめると、


「…翔?」


俺の名前を呼んだあと、美咲は俺の頬にそっと触れた。

細い指が俺の頬を触れる。

美咲の大きな瞳が揺れることなく、俺をジッと見つめていた。


「…覚えてる?」


俺が言ったこと。

離れる時に俺が美咲に贈った言葉。

あの頃は何を目的でその言葉を発したのか正直分からなかった。

だけど今、こうやって美咲に会って触れた瞬間、やっぱり俺には美咲しかいないと思った。


「なにが?」

「美咲が旅立つ前、…結婚しよ?って言った事」

「う、うん。覚えてる…けど」


急に言ったもんだから、美咲の瞳が泳ぐように揺れた。

まだ俺の頬に触れている美咲の手に自分の手を重ね、その手を下に下ろす。


「今は無理だけど、来年。…俺が30になったらしよ?」

「……」

「美咲と一緒に居たいから」

「…うん」


薄っすら微笑んでくれる美咲の唇に、更に重ね合す。

何度も重ね合わせ、必然的に舌が絡まりあう。


キスに溺れ、美咲の腕が俺の首に周り、そしてその手が俺の背中を何度も擦るように撫でてくる。


だからその所為で俺の理性など止まることはなかった。


唇を離し、美咲を見下ろす。


「誘ってんの?」


クスリと笑う俺に美咲も同じく頬を緩ませる。


「誘ってるの、そっちでしょ?」

「うん。俺はしたい。したいと思うのは俺だけ?」


美咲の目を見て問いかける俺に、美咲は更に頬を緩ませる。


「…ううん。私もしたいよ」


恥ずかしそうにそう言った美咲の言葉に吸い込まれるように、もう一度唇を重ね合わせた。