Existence *

午前中。

仕事を終わらせ、午後に次の職場に足を運んでいた。

その帰りどこも行かずに帰宅し、玄関のドアを開けた瞬間に目に見えたヒールに視線が一瞬止まってしまった。


…――美咲?


止まっていた足が再び動き、リビングに向かう途中のドアに視線が向く。

そこを覗き込むように視線を送ると、やっぱり美咲が居て――…


「…美咲?」


俺は声を掛けた。

って言うか、何してんの?お前…


美咲の手元にはボストンバックがあって、その中には何着の服も入っている。

その横には今まさに服を取り外したハンガーもある。


「…おか…えり」


いや、お帰りじゃねぇだろ。

この状況でおかえりって、なに?


ジッと見つめる俺から美咲は少しだけ目を泳がし、視線をさげていく。

久しぶりに会えたと思ったら、お前はここで何をしてんだよ…


「何やってんの?」


低く小さく呟いた俺の声。

その声に美咲の手が鞄をギュッと握りしめられる。


「何って…」

「それがお前の答えな訳?」


それがお前の…

お前は俺のこの質問になんて答える?

俯く美咲は視線を上げることなく、ただ俯くばかりで――…


「…ごめん」


小さく漏れた美咲の言葉に一瞬だけ目を瞑り俺は息を吐き捨てた。

ごめんってなに?

答えになってねぇんだけど。

何に対してのゴメン?


は?まじで意味分かんねぇんだけど。

意味分かんねぇけど、もうそれって。


「って事は一緒に居れねぇってことだろ?」

「……」

「つか勝手にお前1人で決めんなよ」

「……」

「俺に何も言わねぇで荷造りかよ」

「……」

「まじ意味わかんねぇわ」

「……」

「なぁ、美咲?」

「…ごめんっ、」


慌てた様に美咲が手を動かしていく。

鞄の中にここにあった美咲の物すべてを全部詰め込み、そのバックを閉めて立ち上がる。

俺の顔など一切見なくて、俯いて足を進めていく美咲の腕を俺は咄嗟に掴んだ。


何でこんなことになってんのか分からない苛立ち?

美咲の腕を掴んで、その腕を引っ張る。

勢いよく引っ張ったせいで、美咲の身体が崩れ、そのまま美咲は横にあるベッドに倒れ込んだ。


「ごめんじゃ、分かんねぇだろ」


仰向けに倒れ込んだ美咲の上から美咲を覗き込み、そう言葉を吐き出す。

一瞬カチ合った瞳さえも、避けられ、俺の全てを避けてるようにしか感じなかった。


もうほんとに俺とは他人事のように逸らされた瞳。

ごめん。しか言わない美咲に正直、苛立ちが芽生える。