Existence *

「分かんないけど…」

「辛いから逃げるんじゃねぇの。逃げるから辛くなんの。…この先の可能性を信じなきゃ何も始まんねぇよ」

「……」

「言ったろ?美咲の傍にずっと居るって。5年前からその気持ちは何も変わってねぇよ」

「……」

「ほら、美咲のお母さんが言ってた言葉。幸せになる一番の方法は“今”を幸せだと思う事って。…俺の今は今だから」


まだ吸えるタバコを灰皿に押しつぶし、美咲の身体をそっと抱きしめる。

そして背中から頭に手を移動させ、美咲の後頭部をそっと撫でた。


「…私も幸せだよ」


美咲のその言葉で頬が緩む。


「なら深く考えなくてもいいんじゃね?」


そう言って、美咲を更にギュッと抱きしめた。


「うん…」

「ずっと、この先も一緒に居るから」

「うん、私もだよ」

「ホントかよ、」


苦笑い気味にそう呟くと、美咲は俺の身体を離して見上げた。


「ほんとだよ。だって、翔しかいないもん」

「ありがと。俺も美咲しか居ないから」

「……」

「って、なんで無視?」


思わずクスクス笑う俺に美咲は俺をジッと見つめた。


「ほんとに?」


小さく呟いた美咲の頬が少しだけ緩む。


「そう、ほんとに。美咲しか居ないから」

「私も翔しかいない」


いつも以上に笑った美咲の顔。

その笑顔が嬉しくて美咲の身体をもう一度抱きしめた。


…――そう、5年分を取り戻すかのように。