Existence *

「ねぇ、それより翔くん、あなたはどうなってるのよ」

「どうってなに?」


寝転んだまま沙世さんに視線を送ると、沙世さんはため息を吐きながら目の前のもう一つのソファーに腰を下ろした。


「あなたの噂が私の耳にずっと入って来るのよ」

「また噂?ほんと下らねぇ奴ばっかだな」

「私の店の女の子がね、翔くんが夜の業界に戻ってくるって聞いたんだけどほんとですかーって言ってきたのよ」

「で、なんて答えた?」

「知らないって言った」

「いやいや知らないじゃなくて、そこは戻んないって言ってくんねぇと」

「だって、知らないわよ。あなたの事なんて。私には関係ないし」


俺を見つめてクスリと笑う沙世さんに、思わずため息を吐き出す。

ま、そりゃそうだけど。


「最近さ、そのわけわかんねぇ話がすげぇ迷惑。夜から足払ってっからどこルートでそうなってんのかも分かんねぇし」

「大変ねぇ…」

「ほんっと、他人事みたいな言い方だな」

「だって、私がどうこう出来る事でもないでしょ?」

「まぁ、そうだけど」

「人の噂も七十五日って言うじゃない」

「いや、もうすでに七十五日過ぎてっけどな」

「あら、そう。困ったわね。百合香がそんな男前に産んでくれて感謝だよねー」

「何言ってんだよ、まじで」

「男前には男前にしかない苦労の悩み。有難い事じゃない」

「意味分かんねー…」


呟くと同時に沙世さんの笑い声が聞こえる。

態勢を変えて横向きになり、沙世さんから視線を外して目を瞑った。


「ねぇ、美咲ちゃんは元気?」

「うん」

「不安にさせちゃ駄目だよー」

「ん、」

「もぉ、あなたはココに寝にきたわけ?」

「……」

「ねぇ聞いてる?」

「ん、」

そのまま呟いて、俺の意識が途切れたのは言うまでもなかった。

目が覚めた頃には外はすっかり暗闇に包まれていた。

うわー…と思いながらテーブルの上にあるスマホを掴んで明りを灯す。


19時18分。


「マジか、」


小さく呟き、気怠い身体を起し、伸びをする。

カーテンが全開になっているガラス張り。

そこから見える夜景が目に飛び込む。


リモコンで電気を点けると、もちろん沙世さんの姿などなく、そのままソファーに深く背を付けた。