Existence *

「ねぇ、どうしたの?なんかあったの?」


クスクス笑いながら沙世さんはベランダに顔を出す。


「いや、何もねぇよ」

「ホントかしら。翔くんがここに来るって改めて何かを言いに来たかと思ったわよ」

「はぁ?改めてって何?何もねぇし」

「そうなの?結婚のご報告かと思ったわよ」

「ごめんなー、全然違うわ」


苦笑いしながら言葉を吐き出すと、沙世さんはフフっと笑った。


「あら、残念。ほんとに来ただけなんだ」

「だから言っただろ。たまには来ないとうっさいからって」

「もう何よ、その言い方」


フイっと顔を背けて、俺に背を向けて足を進ませていく。

暫くベランダに居てタバコを吸い終わると、リビングに入り、そこにあるベッドソファーに寝転んだ。


「相変わらずすげぇな、この部屋」


寝転んで天井を見上げる。

ガラス張りのだだっ広い部屋にシャンデリア。

ほんとこの人の才能はよく分かんねえわ。


「そろそろ引っ越そうかなって思ってるのよ」

「なんで?」

「あの人も帰って来るし老後の為に?」

「老後?」

「ほら、こんな高層階に住んでたら何かあった時にねー」

「ふーん…。つか哲也さん帰ってくんの?」

「年明けにね」

「もうずっとこっち?」

「みたいだよ。翔くんにも会いたいって言ってたよ」

「帰って来たら言って。会いに来るわ」

「私には会いに来ないのに」

「今、会いに来てんだろうが」

「そうねー…何か月ぶりかしら」


クスリと笑った沙世さんは目の前にあるテーブルにアイスコーヒーを置く。

それに手を伸ばして口に含み、俺はまたソファーに身体を預けた。