Existence *

「行こ」


表情を崩す女の子の手を引いて美咲は足を進める。

その視線から外して俺は足を進め、駐車場まで向かう。


後部座席に二人が乗り込んで、俺は車を発進させた。

静まり返った車内の中、着くまで誰も言葉を発しないままだった。

何があったかは聞かないけど、昔の美咲と重なって見えてしまった。


むしろ昨日の事で俺は未だに気になっている。

だけど、今はそれどころじゃないと言ったらいいのだろうか。


「翔っ、」


マンションに着いて、降りた俺に美咲の声が飛んでくる。

視線を向けると美咲は顔を顰めたまま俺に視線を向けた。


「どした?」

「部屋に置いている鍵取って来たら、あっちの家に送ってよ」

「何で?」

「よく考えたら寝る所ないじゃん」

「ベッドで寝ろよ。俺、隣の部屋に行くから。ソファーでもいいし」

「でも…」

「いーから。もう遅いし、お前まで気にすんな。…行くぞ」


ドアを閉めると美咲は後部座席に顔を覗かせる。


「天野さん、行こ」

「すみません…」


小さく呟かれる声。

足を進め、リビングまでたどり着くと、俺は持っていたキーケースをテーブルに置き、そのままベランダへと足を進めた。

目の前の所々に光る暗闇を見つめたままタバコを咥え火を点ける。


「なんか…ごめん」


暫くして背後から聞こえる美咲の声。

振り返る先には申し訳なさそうにする美咲が居た。


「全然。…なんつーか理由は聞かねぇけどさ、美咲がした事は悪い事じゃねぇし、なんか昔の美咲見てるみたい」

「……」

「まぁ、あんな優しくはなかったけどな」


タバコの煙を吐きながら思わず苦笑いになる。

案の条、美咲は頬を膨らませて俺を見つめた。


「なんか、嫌味みたい…」

「嫌味でもねぇけど、冗談でもねぇよ」

「何それ。よくわかんないし」


笑う俺に美咲は更に頬を膨らませた。

ほんとあの頃は必死だったな。

お互いに。

でも今ではあの頃が嘘のように、一緒に居る。

懐かしいと言えば、懐かしい。