Existence *

美咲が帰宅する前に風呂に入り、髪を拭きながら脱衣所の扉を開けた瞬間だった。


「…え?美咲?」


慌てた様に玄関に向かっていく美咲に声を掛けると、美咲は戸惑ったように俺を見つめた。


「あ、ごめん。ちょっと私出掛けてくる」

「出かける?どこに?」

「あー…うん。なんか天野さんがさ、ここ最近休んでて…」


だからって、こんな時間から?

美咲は困った様に瞳を揺るがし俺を見つめた。


「送ろうか?」

「いや、ううん大丈夫」

「けどこんな時間だし」

「でも大丈夫だから。すぐに帰るから」

「なんかあったら電話してこいよ」

「うん、分かった」


慌てて出て行った美咲にそう言ったものの、時間を見て顔を顰めた。


23時半過ぎ。

いや、むしろこんな時間からどこに?

天野さんって、確かあの女の子だろう。

以前、学校へ向かいに行った時に出くわした女の子。


送ればよかったと、今更ながらに後悔する。

ソファーに座り、ふとテーブルに視線を送った先に見えるのは美咲の鍵。


慌てて行った所為か、置きっぱなしで行った鍵に思わずため息を吐き出した。

今から出るにも出られない。

美咲の鍵がここにある以上、出歩けないと思った。


どれくらいソファーで寝転んでいたのかも分からなかった。

刻々と過ぎていく時間。

あれから1時間以上は経つ。


むしろもう終電はとっくに過ぎている。

美咲に電話を掛けようとした時だった。


不意に鳴り出した着信音。

美咲だと思い、スマホを掴む。


「…彩斗?」


画面を見ると、美咲ではなく彩斗からの電話。

こんな時間になに?と思いつつ、耳にあてた。


「…はい」

「あー…もしもし?…俺っす」

「あぁ、どした?」

「あ、今…翔さんの彼女さん居てますよ?」

「は?一人で?」

「いや、高校生?の女の子と」

「あー…」


さっき言ってた天野さんって、子か。


「終電ないんで迎えお願いしまーす」

「いまどこ?」

「今、店の前っす」


店の前って、んでそんなとこに居んだよ。

やっぱ初めから乗せていけばよかったわ。なんて思いながら俺は着替えて車を走らせた。