Existence *

「だけど、美恵からそれは出来ない…とずっと言われ続けていた。留学中だと知り、帰って来たら相談してみるって言ってた矢先の事。ある知人から美恵が亡くなったと聞かされて」


そらそうだろ。と思った瞬間、俯いていた美咲の顔が少しだけ上がる。

そしてその口がゆっくりと動いた。


「もしママから聞かされていたとしても、私は会うつもりなんてなかった。現に今、アンタを父親だとは思えない」

「それはよく分かっているつもりだ」

「じゃあ何でよ!そんな風に思ってるのなら、私に会いたいなんて言わないでよ!考えてみればおかしいでしょ?私はアンタに捨てられたんだよ?」

「……」

「勝手に女作って出て行ったのはアンタでしょ?なのに今更現れないでよ!!」

「ホントにすまない…」


美咲の瞳が潤んでくのが分かる。

だけど、そこから涙なんか落ちる事はなく、目の前の男を睨んだ後、お母さんの遺影に視線を送り、瞳を揺るがした。


「あの、もう一つだけ聞いてもいいですか?」

「構わないが…」


別に聞く必要すらなかった。

別にどうでもよかった。


うっとおしいくらいに指に光る指輪。

つか、外して来いよ…


「今はどうされてるんですか?…家族は?」

「…14歳と12歳の娘がいる」


別に、それには驚かなかった。

だろーなって、そう思った。


別にどうでもいいけど、俺の顔も知らない父親もきっと家族があるのだろうと。

ほんと、今更会いに来るとか意味分かんねぇわ。

だから美咲の気持ちが物凄くわかる。


捨てられた後の事なんかなんも知らねぇくせして、今更現れて――…


「…バッカみたい。なのに一緒に住もうとかあり得ないでしょ?何で私が見ず知らずの家族に入んなきゃいけねぇんだよ!ふざけんな!」


美咲の声がここぞとばかりに反響する。

ほんと、くだらねぇわ。

何の為に会いたいと思うのだろうか。

俺の父親も、なんでお袋の墓に現れたのだろうか。

俺に会いたいって?


ほんと、どうにかしてるよな。

勝手な大人に振り回され、残された奴の事なんかほったらかしで、その挙句今になって会いたいとか、意味分かんねぇわ。


いつかは父親に会いたい日が来るなんて思うのだろうか。

いや、俺はこの先もずっと思う事は、ない。