Existence *

「出くわした女に言われたからな。戻って来るって言う訳分からん噂な」

「なるほど」

「どーにかなんねぇのかよ」

「どーにかなってたらそんな話でねぇだろうが」

「まぁ、そうだけどよぉ…。俺もめんどくせぇんだわ」


小さく呟きながらタバコを咥え顔を顰めた。


「つか俺の方がめんどくせぇわ。嘘情報流れても、んなもんほっとけよ。これ以上俺はどーも出来ん」

「ほっとけるならほっときてーけどな」

「つか、なに?なんでお前そんな気にしてんの?普段そんな事全く気にしねぇのに」

「別に」

「あ、あー…、美咲ちゃん?」

「うん?」

「美咲ちゃんの事でも心配してんの?」

「いや、別に」


小さく呟いた俺の声に流星の笑い声が密かに聞こえる。

気にしてないって言ったら嘘になるけど、これ以上、面倒な事に関わりたくない。


「まー、ほっとけよ」


そう言った流星の言葉に電話を切り、短くなっていたタバコを灰皿に押し潰す。


ほっといた結果がこれだからな。

ほんと、くだらねぇ噂だな。


24時を回ろうとした頃、玄関が開く音が聞こえ、ソファーに寝転んでいた身体を起す。


「ただいま」

「おかえり」


そう言って美咲に振り向くと俺の傍まで来た美咲が俺の顔を覗き込んだ。


「疲れてる?寝てて良かったのに」

「何も疲れる事してねぇし」


微かに笑って立ち上がり、美咲の身体をそっと抱きしめた。


「なんかあった?」

「なんもねぇわ」


笑いながらそう言って美咲の身体を離す。

不思議そうに見上げて来る美咲の頭をそっと撫で、俺は冷蔵庫に足を進めた。


「あ。明日、葵と会ってくるから」

「葵ちゃんって言うか香恋だろ?なかなか帰れそうにねぇな」


クスクス笑いながら振り返り、取り出した水を口に含んだ。


「大丈夫だよ。翔じゃないから帰れるよ」

「なんだよ、それ」


苦笑いする俺に美咲は微笑む。

正直、少し安心した。

上の空だった美咲がここ最近は普通な事に。



…てか。

俺も、考えすぎか。