Existence *

「あ、これケーキ。彼女にどーぞ」

「美咲に?」

「そう。わざわざここに持ってきてくれたんで」

「いや、持ってきたの俺だからな」

「ははっ、そうっすねぇ。出勤前にアキが甘いもん食いてぇっつーから寄ったんすよ」

「あいつ甘いもんすきだなぁ」

「だからどーぞ」

「ありがとう。渡しとくわ」


彩斗から紙袋を受け取り、その場を後にする。

帰宅し玄関を開けた瞬間に奥から明りが灯る。


「ただいまー」


美咲が居る事に内心ほっとし、声を飛ばしリビングに顔を出す。


「あ、おかえり」

「おぅ」


開けていた冷蔵庫をパタンと閉じた美咲は俺を一瞬見つめる。


気のせいだろうか。

美咲の瞳が辛うじて赤い。


―――…もしかして泣いてた?


「…あれ?一度帰ってきた?」

「あぁ。ツレと会ってた」

「え、じゃあもっと会ってたら良かったじゃん」

「いやいや今から本業だからな」


だからと言って蒼真さんの事は言えなかった。

美咲の家の事を聞いてたなんて、何の答えも出てないのに言えるわけがなかった。


「もしかしてホストの人?」

「そーそー。で、これ貰った」


手に持っているのを美咲に渡し、不思議そうに美咲は見つめた。


「何?」

「ケーキらしいけど」


紙袋から箱を取り出し、中身を見る美咲の表情が明るくなる。

あ、やっぱ気のせいか。

俺の思い込みか…


「わー、めっちゃ可愛いじゃん、このケーキ」

「良かったな」

「って言うか、何でくれたの?翔、甘いもの好きじゃないじゃん」

「あー…それ美咲に」

「は?…なんで私に?」

「ただの世話好き」


そう言って笑いながら冷蔵庫からビールを取り出し、口に含んだ。