Existence *

「――…楓っ、久しぶりっ、」


勢いよく走ってきて、俺の身体に抱きついた所為で、俺の態勢が崩れる。

おい、ちょっと、待て待て。


「危ない、危ない、」


俺から女の身体の引き離すと、女は蔓延の笑みで俺を見上げた。


「どうしたの?もしかして戻って来る?」

「え?」

「だってそんな噂が流れてるよ?」

「そんな訳ねぇだろ。噂は噂だからな」

「じゃあ、どうして店に?」

「ちょっと用事で」

「ホストに戻る用事、とか?」

「違う」


素っ気なく返した俺に女は不満げな表情をし、再び俺に視線を合わせてきた。


「ねぇ、楓ってさ、彼女居るの?」

「え、なんで?」

「うわさ、ね」

「噂、好きだな」

「私は楓が好きだけどなぁー…」


思わず鼻で笑ってしまった。

俺が好きって、俺のどこが?


「はいはい」

「で、彼女いるって本当?」

「ノーコメントで」

「何それ」

「じゃあ、急いでっから行くな」

「えー、待ってよ!」


女を背後に足を進めると、弾けた声が飛んできて、その声を無視して店に足を踏み入れる。

賑わう室内。

ザワザワした風景が懐かしさを物語る。


「うわーっ、楓さんっ、」


その声に顔を向けると、懐かしい顔ぶれがある。


「久しぶり」

「まじ久しぶりっすね」

「彩斗いる?」

「今、接客中っす」

「あー、んじゃこれ渡しといてくれん?」


手に持っていたファイルを差し出すと、


「あ、待って下さい。彩斗さん何か話したい事あるっつってましたから」


そう言って、後ろに視線を向けた。


「時間かかりそうだな」

「ちょっと呼んで来ます」


急いでこの場を離れ、しばらく経つと彩斗が姿を現す。


「すんません、わざわざ」

「いやー、まじで勘弁して」

「ははっ、何かありました?」

「まぁ、な。はい、これ」

「ありがとうございます。あ、ちょっと待ってて下さい」


そう言ってこの場を離れた彩斗が、手に何かを持って再び現れた。