Existence *

「とりあえず頭にいれときますわ。ちょっと考える」

「何を考えんだよ、」

「んー…いろいろと?」


考えながら呟く俺に蒼真さんはクスリと笑う。


「まぁ、またなんかあったら言うてきて。あ、そうそうお前帰りに店寄って彩斗にこれ渡してくれん?」


そう言って一旦離れた蒼真さんは手にファイルを持って現れる。


「なんすか?」

「マンションの物件」


受け取ったファイルから数枚の用紙を見て、それをファイルに仕舞う。


「あいつ引っ越すん?」

「そう。言われてて、今日、翔が来るから持って行かすわーって言ったから」

「いやいや、あの店に…。嫌な予感しかねぇわ」

「そんな都合よく女に出会わんくない?」


クスクス笑う蒼真さんに俺は顔を顰めた。


「いやー…、まぁ持って行くけど」

「頼むわ」


他に雑談して、外に出たころには、もう真っ暗で腕時計に視線を落とす。

時刻は19時20分――…


結局、俺の中での答えなど全く出ず、そのまま店に向かう。

近くの駐車場に車を停め、車体に背をつけてタバコを咥えた。


彩斗の番号を出し肩と耳にスマホを挟んでコールしながら、咥えていたタバコに火を点ける。


「…はい」


暫くして途切れた着信音から彩斗の声が漏れて来る。


「今、出て来れる?持ってきたんだけど」

「今、無理っす。暫く出れないんで翔さん、持ってきて下さい」

「え、店に?」

「そう。お願いします」


電話を切って、思わずため息を吐き出す。

顔を顰めたままタバコを咥え、ゆっくりと煙を吸い込んだ。


「しゃーねぇなぁ…」


呟きながら煙を吐き出し、タバコの火を消して店に足を進めた。

ここを歩くのはいつぶりだろう。

ほんとに久しぶりで、最近は繁華街も来ていなかった。


賑わう人だかり。

溢れかえる人混み。

相変らず夜の街は輝いていた。


その人混みの中から、


「――…楓っ、」


聞こえてしまったその声に、思わずため息が出た。

ほらな。


――…そんな都合よく女に出会わんくない?

だろうと思った。

そんな都合よくここに来れば誰かに出会う。