Existence *

「ママが残してくれたお金で、後数か月は払えるんだけど勿体なくて…」

「勿体ねぇよなぁ…」


あの家を売却するのは勿体ない。

駅までの距離もそれほど遠くはないし、不便な所でもない。


「でしょ?居ないのにお金払うって勿体ないでしょ?」

「え?そーじゃなくて、俺はあの家を売るって事に勿体ねぇって言ってんの」

「え、そーなの?そっちなの?」

「あぁ

「何で?」

「お母さんがずっと住んでた家を売るのは勿体ねぇよ」

「けど住まないのに払うんだよ?そっちのほうが勿体ないじゃん」

「あとどれくらい?」

「多分、一千万と少し」

「ふーん…。ま、その話は今度しよ。俺も考えっから」


一千万と少しか、

まじでどうすっかな。


美咲のお母さんが言ってた。

いつかはこの話になるって。

むしろ俺からすると、こんな早くにこの話を持ち出してくるとは思ってもみなかった。


だから何にも考えてなかった。


その事を数日間考えてしまった。

別に急がなくてもいいけど、美咲に言われてから頭に引っかかったままで、日曜日昼過ぎまで仕事をして一旦帰宅する。

帰宅して風呂に入った後、俺はソファーに腰を下ろした。


14:26――…

美咲の姿はなく、電話しようと思い画面に番号を出すも、美咲の番号を切り替え、俺は蒼真さんの番号を映し出した。


「はいよ」


コールが途切れ軽快な蒼真さんの声が耳に届く。


「今、忙しいっすか?」

「忙しいけど俺は忙しくない」

「なんすか、それ」


苦笑いしながらタバコを咥えて火を点ける。


「どしたん?」

「ちょっと聞きたいことあって」

「おー、なに?」

「空いてる時間でいいからそっち行きてーんだけど」

「あー…17時やったらええよ」

「んじゃ、その時間行くわ」


電話を切った後、ソファーに深く背を付けて天井を見上げて煙を吐き出す。

この数日間、色んな事を考えた結果、結局どうしたらいいのかなんて答えすらでなくて。

だからと言ってそのことについて美咲には何も言えないままだった。


そして美咲もその事に触れては来なかったから俺も何も言わないままだった。