Existence *

「何これ…」


ポツリと小さく呟かれた美咲の声。

次第に聞こえてくる美咲のすすり泣く声と瞳から落ちる涙。

その涙が溢れだした美咲は手で顔を覆い、すすり泣く声が次第に大きくなる。


葬儀が終わってから今ままで涙を流すことがなかった美咲がお母さんの手紙によって再び流れ始めた。


「…美咲」


声を漏らして泣く美咲の身体を抱きしめ、そして頭を撫ぜる。

俺の胸で泣く美咲は泣くことを止めることなく、声を漏らしていく。

その美咲を抱え込むように抱きしめ、俺は何度も頭を擦った。


「…ママが居ないとダメなの。…ママが居ないと…」


悲痛に漏らす美咲の声は微かに震えてて、息を詰まらせる。


「…美咲、」

「一人になっちゃったよ…」


壊れるような声と、次第に震えてくる身体。

その震える身体を俺は更に抱きしめた。


お母さんの事を大切にして大事にしてきた美咲の思いが俺にも伝わる。

あの頃の俺には感じた事のない母親への愛が強すぎて、それが逆に俺の過去を掘り返しそうだった。


「俺が…いるだろ?」

「……」


抱え込んでそっと囁く。

美咲の傍に。


「一人じゃねぇよ。俺がお前の傍にいるから」

「……」

「ずっと美咲の傍にいる」


どれくらい抱きしめていたのだろう。

次第に美咲の声も涙も落ち着き、美咲は俺からそっと離れていく。


「ごめん、ね。…もう大丈夫」

「…美咲?」


俯く美咲を覗き込むように顔を見つめると、美咲はゆっくり顔を上げ、軽く微笑んだ。


「大丈夫だから心配しないで」


赤くなった瞳。

流れていた涙をふき取り無理に笑う美咲を俺はもう一度抱きしめる。


「無理すんなよ。我慢しなくていい。…俺が居るから」

「うん…」


暫くの間、美咲の家に居て、その一週間後俺はマンションに帰った。

美咲は家とマンションを行き来し、またいつも通りの日々が過ぎ去っていた。