Existence *

「なんでっ、なんでっ、なんでっ、美恵っ、ねぇ、なんでっ、」


泣き叫んで、棺桶に涙の痕が残っていく。

ほんと、沙世さんを見ているようだった。

遠い、遠い記憶が舞い戻って、俺はそこから視線を逸らすと、遠くの方にいた美咲がお母さんの遺影を抱えたままこっちに足を進めてきた。

俺の横を通り過ぎて、その女の人の横に美咲が来て、美咲は女の人の背中をゆっくりと撫ぜた。


「来てくれて、有り難うございます」

「…美咲ちゃんっ、ごめんね。来るの遅くなってしまって」


首を振る美咲の瞳が潤んでくるのが分かり、そこから涙が頬を伝った。

ここに来て、初めて流した美咲の涙に俺も涙が溢れそうだった。


今まで必死に役目を果たして、頑張ってきた美咲が口元を抑えて涙を堪えようとしている。


「…美咲?」

「大丈夫…」


美咲の傍に近づいて声を掛けると、美咲は頬に伝う涙を拭った。


「そろそろお時間が迫ってきてますので――…」


その言葉で葵ちゃんが泣きながら美咲と女の人の背中を擦って、棺桶から身を引く。

棺桶を数人で担いで霊柩車に運ぶと、更に美咲の泣き叫ぶ声が辺りを反響した。


その声で周りの参列者のすすり泣く声も広がり、あの時の光景と全く同じだった。

あの頃の俺は涙など何もでなくて、何が起こってんのか他人事のように見つめてた。


可愛そうだね。って声と。

苦労して亡くなったよね。とか。

その声に交じって、あんな息子が居たから――って。

俺を軽蔑するような目でみんなが見てた。


でも、そう言われても、そう思われても仕方がなかった。

俺がお袋を大切にしていなかったから。


ほんと、思い出す――…


過去が嫌なくらい蘇って来る。