Existence *

「とりあえず急ぐぞ」

「どうしよう…」

「一時間くらい前に電話があった。お前が出ないからって、俺に」

「ごめん…授業してて」

「うん。だからここで待ってた」

「ごめんね」

「ううん」


病院に着くまで俺も美咲も一言も口を開くことはなかった。

それどころか、どうか着くまで生きててほしい。

ただ、それしか思う事はなかった。


隣の美咲は両手をギュッと握って、窓の外をずっと眺めていた。


病院に着くと急いで病室に向かう。

だけど、着いてその周りの空気で分かってしまった。

医師と看護師が静かに俺達に軽く頭を下げた。


――…遅かった。

最後に生きてる間に美咲に会わせたかった。


「ちょっと!何で何もしないんですか!?」


俯く俺の頭が美咲の声によって、上がる。

美咲の瞳はすでに潤んで、そこから一粒の涙が頬を滑り落ちた。


「ねぇ!先生お願いだから助けてよ!…ねぇってば!」


静まり返った部屋に美咲の声が反響する。

医師の腕を掴んで、美咲は崩れ落ちそうになっていた。


「申し訳ありませんがこれ以上手のほどこしようがありま――…」

「待ってよ!何言ってんの?先生医師でしょ?だったらちゃんと最後まで見てよ!ねぇ、お願いだから――…」

「美咲!もう辞めろって、」


叫んでる美咲の腕を掴み、医師から美咲を離す。


「すみません…」


周りの人たちに軽く頭を下げた俺に、医師は申し訳なさそうに軽く首を振った。


「何でよ。何で翔までそんな事言うのよ。私ママが居ないと生きていけないの。…生きて、いけないのに…」


そう言った美咲の瞳から更に涙が溢れた瞬間、ピィーっと機械の音に俺は俯いて目を瞑った。


「…20時12分――…」


その瞬間、隣の美咲が一瞬に崩れ落ちるのが分かり、俺はその美咲を支え、ソファーに座らせる。

泣きじゃくって、どうしようもなくなっている美咲の背中を擦ると、


「ママを家に連れて帰りたい」


泣きながら言った美咲の言葉に俺の瞳も微かに潤んだ。