Existence *

コンコンとドアを叩く音。

その音に反応した俺は視線をドアに向け、「…はい」と小さく返す。


「…あ、翔くん」


部屋に入ってきたのは実香子で、寝ているお母さんをジッと見つめた。


「今、帰り?」

「うん。早く終わったからさ。美恵さん、どう?」

「うん…」


何も言葉を交わさない俺から実香子はお母さんに近づいて、腕から繋がった点滴の落ちるスピードの確認をしてから、そっと手を握った。


「美恵さん、こんばんは」


ゆっくり目を開けていくお母さんは実香子を見て、頬に笑みを作る。


「…実香子、ちゃん。…ありが、とう」

「今はゆっくり休んで、元気になったら美味しいものでも食べに行きましょーね」


実香子の言葉にお母さんは笑みを作り、その視線は俺へと移った。


「…翔、くん。…ごめん、ね」

「なんも謝ってもらう事なんてないですよ」

「あと、…何日、かな」

「え?」

「生きられるの…」


小さく呟いたお母さんの掠れた声。

ベッドを挟んで目の前にいる実香子が、スッと視線を外して、唇をかんだ。

その瞳から流れ落ちる涙をそっと手で拭って、もう一度お母さんを見つめた。


「もぉ、何言ってるんですか?今はゆっくり休んでください。また来ますね」


微笑んだ実香子にお母さんも微笑む。

呼吸が苦しそうで、お母さんはそのまま目を閉じる。


病室を出た瞬間、実香子の瞳からまた涙が伝う。


「ごめん、」


そう言って実香子は笑って涙を拭った。


「実香子?来てくれてありがとう」

「ううん」

「電車で帰んの?」

「うん」

「送るわ」

「大丈夫?彼女いるのに」


クスリと笑った実香子に俺は鼻でフッと笑い、足を進めていく。