Existence *

「ごめんね。なんか思うように出来なくて」

「……」

「それで、ここにあるの全部出してほしいの」


手渡してきたのは3冊の通帳。


「全部?」

「そう。お願い。早くしてくれると助かるわ」

「引き出してどうするんですか?」


そう言うとお母さんはフッと優しく笑みを漏らした。


「おいといて。美咲は夜居ないから頼めないでしょ?」

「……」

「と言うか、私から伝えちゃうとその意味を察して不安にさせるだけでしょ?」

「……」

「だって、もう…」


ゴホゴホとむせ返る咳が苦しそうで。

だけどその苦しそうな表情で微笑むお母さんの言ってる意味が俺にはよくわからなかった。


その意味を察して不安?

どーいうこと?

全く分かんねぇんだけど。


「すみません、この通帳に何か意味あるんですか?別にこのままでも…」

「全然足しにはならないけど、生活費ね」

「……」

「翔くん、今までありがとう…」


その言葉でハッと通帳から視線を上げる。

そこで漸く分かってしまった。


生活費。

また記憶が戻って来る。

お袋が亡くなった後、沙世さんが封筒に入った札束を俺に渡してきた。

お袋が貯めてたお金だって。

亡くなる前に引き出して翔くんに渡してって言われたって、沙世さんが言ってきた。


もー、こんな事また美咲に言えるわけがない。

亡くなる前に引き出せって?

そんな事言えるわけもないし、むしろまだお母さんは死なないって、俺はそう思ってる。


美咲も美咲で今、やっと少しだけ落ち着いてきたところで。

なのに、そんな事、言えるわけもない。


考えることが最近やけに多くなってきた。

深い重い話と、どうしたらいいか分からない状況。


その日、美咲が帰宅すると美咲は珍しくソファーへ倒れ込む。

美咲が疲れる気持ちもわかる。


ここ最近、自分の事とお母さんとの事、学校の事で、いっぱいいっぱいだろう。

だけど、今日言われたことは言わないと――…