Existence *

次の日の夕方。

仕事があと少しで終わると言う時間帯。

不意に鳴り出したスマホに手を伸ばし、ポケットから取り出す。

画面に出た名前に、何かあったんだろうか。と内心焦ってしまった。


「…はい」

「翔くん?…ごめんね、仕事中に」


電話越しから聞こえる美咲のお母さんの声。


「いえ。…どうしたんですか?なんかありました?」

「申し訳ないんだけど、病院に来てほしいの」

「え?病院に?」

「何時でもいいの。渡したいものがあって」

「渡したいもの、…ですか?」

「そう」

「わかりました。19時には行けると思います」

「ゴメンさいね」


電話を切って、一息吐く。

渡したいもの。ってなんだろうか。


むしろ今日、朝いちに美咲が行ったはず。

その時に渡せなかったんだろうか。

しかもなんで俺に?


あの日。

美咲のお母さんが俺に家の事とお墓の話をしてきてから、嫌な予感しかない。

もちろん美咲には言えるはずもなく今日まで来てる。


出来れば美咲には隠し事も秘密もしたくはないが、この件にしてはどうしても言えない。

そして正直、美咲のお母さんが考えている事が分からない。


仕事が終わり一旦帰宅して風呂に入ってから、病院まで足を運んだ。

ノックする音にお母さんの声が聞こえ、俺はドアを開けて病室へと入る。


「あ、翔くんごめんね」

「いえ、渡したいものってなんですか?」

「ごめん、これなの」


そう言ってゴホゴホと咳き込むお母さんの背中をそっと擦った。


「寝てていいですから」

「ごめん、大丈夫」


そう言ってるお母さんの表情は前の時よりも苦しそうで、呼吸する姿が深いように思う。

少し苦しそうに引き出しから出したものは、通帳で。


「え、これって」

「今日ね、…美咲が持ってきてくれたの」


そこで一旦言葉を止め、また再び咳き込む姿に、


「大丈夫ですか?」


もう一度背中を擦って、お母さんを見ると、薄っすら微笑んで俺を見た。