Existence *

「無理は翔の身体です」


微笑んで言う美咲に、呆れのため息が漏れる。

ほんと、それしかねぇのかよ。


「つか最近の口癖はそれかよ」


そう言って俺は美咲が持っている袋をスッと受け取る。


「…ありがと」

「いえいえ。レディーファーストだからな」

「さすが営業トーク」

「だから今は違うっつーの!」


しかも、それ言うのやめろ。

美咲の額を少し力強く押すと、グランと揺れ、美咲は苦笑いしながら頭を支えた。


次の日の日曜日。

美咲はいつも通りに戻ったかのようにテーブルに資料と本をズラリと並べてた。

午後はひたすら勉強しっぱなしの美咲の目の前にアイス珈琲を置く。


「あ、ごめん。ありがとう」


アイス珈琲から視線を俺に向け、俺は隣に腰を下ろす。


「ちょっとは休めば?」

「うん。でも、してなかった事とか色々あって」

「無理すると身体壊すし」

「翔に言われても説得力ないんだよねぇ…」


クスリと笑って、美咲はアイス珈琲を口に含む。

その言葉に俺はフッと鼻で笑った。


「説得力ないってか、」

「そうだよ」

「じゃあ、もう辞めたら?」

「んー…あと、ちょっとだけ」

「ほら、言うと思ったわ」


その言葉で苦笑いになる美咲は俺に視線を向け、更に笑う。


「あー…、明日さママの病院行ってくるね。今日行けなかったし」

「うん」

「それで…」


そこまで言った美咲は口を紡ぐ。

ゆっくりと視線を美咲に向けると、美咲は沈んだ表情で少し俯いた。


「どした?」

「ママには言わないでおこうって思ってる。…流産した事」

「……」

「そのほうがいいと思うんだよね」

「……」

「今は、ママの身体が優先だし、こんな事言っちゃうと余計に悪化しそうな気がして」

「…うん」

「だから、お願い。翔もママには何も言わないで」

「わかった」


俺もその方がいいと思ってた。

お母さんには悪いが、美咲の言う通り、それが正しいと思った。


いや、正しいかどうかは分からないが、そのほうがいいと、


そう思った。