Existence *

「俺も思った」


笑いながらタバコの灰を灰皿に打ち付け、もう一度咥える。


「今日の香恋はいつもより聞き分けいいから良いとすっか」

「お前、また仕事行くのかよ」

「急に別件入ってもーた」

「忙しいな、お前は」

「お前に言われたくねぇけどな」


フッと笑う蓮斗の声。

蓮斗と電話を切って、ソファーに背を付けながらスマホの画面を見つめる。

画面をスクロールしながら埋もれていく電話帳。

それを見ながら一息吐き、俺は次の日、全てリセットするかのようにスマホを変え、番号も変えた。


ほんと必要とする人だけに教えた電話帳には前の半分も満たないくらいになった。


あの日から美咲は何もなかったかのように振舞い、そしてあの事についてはここ数日間、なにも語らなくなった。

あれから1週間。

まだ本調子ではないのは分かるが、美咲が少しづつ元気になっていくことに安堵する。



仕事が終わり帰宅するマンションの前。

その花壇の前で美咲がスマホを耳にあて、誰かと話している様子がここから見える。

近づく俺の気配など気づかず、美咲は電話を切った後も視線を落としたままだった。


「…美咲?」


俺の声でハッと顔を上げ、視線を俺に向ける。


「あ、おかえり」

「ただいま。…つか何してんだよ」


…こんな所で。


「あー…ママがさ通帳持って来てって言ってきて…」


そう言いながら美咲は手に持っていたスマホを鞄の中に入れる。


「通帳?」

「そう」

「持って行って何すんの?」

「さぁ…分かんないけど持って来てって」

「ふーん…」


小さく呟く俺は首を捻る。

通帳?

なんで?

何に必要?

また、お母さんは何を考えてるんだろうか。


「とりあえず明日行ってくる」

「あぁ…」

「ってかさ、今日からご飯頑張るから。今までごめんね」

「あんま無理すんなよ」


微笑む美咲の頭を撫ぜ、俺は頬に笑みを作る。

ほんと俺の為に無理しなくていい。

ご飯ならなんとなってなるし、美咲に余計な負担を掛けたくない。

なのに…