Existence *

思い出すかのように足が自ら進んできたのはお袋の墓だった。

来る途中で買った花を飾り、線香に火を点けて墓石に置く。


「久しぶり…」


そういや美咲と来てから一度もきてなかったな。

あれから一ヶ月か。

まだ一ヶ月か。

いや、もう一ヶ月?

俺からしちゃ来るの早いだろ?

だからまだお袋も怒ってねぇよな?


暫くここで蹲ってしまった。

頭に過って来るのは、さっき美咲のお母さんに言われた言葉で。

それが未だに重くて、全然笑顔で聞ける内容じゃなかった。


「…翔くん?」


不意に聞こえた声に俯いていた顔を上げる。

ゆっくりと振り返ると、


「覚えてくれてたんだ」


そう言って沙世さんは頬を緩めた。


「…え?」

「なにその反応。もしかしてたまたまって事?今日は百合香の誕生日でしょ?」

「…あ、そか」


ごめん、そんな事、忘れていた。

そか、もうそんな日か。


「ほんと困った息子。忘れてたの?ちゃんと覚えてあげてよ。可哀相じゃない」

「…ごめん」

「どうしたの?そんな浮かない顔して」


困った様に沙世さんは笑みを浮かべ、持っていた花を飾る。

そして沙世さんは、そっと墓石に触れた。


「百合香、おめでとう…」


そう言って、沙世さんは微笑んで線香を取り出す。

取り出した沙世さんの線香を受け取り、俺は持っていたライターで火を点けた。


「ん、」

「ありがとう」


俺から受け取った線香を置くと、沙世さんは手を合わせた。


「…なぁ?一つ聞いてい?」


暫く経ってから俺が声を出すと、沙世さんは閉じていた瞳を開け俺に視線を送る。

聞きたかった。

どうしても聞きたかった。

これだけは聞きたかった。


「なに?」

「このお墓って、誰が準備してくれた?」


俺の知らない過去。

気づいたら、もうここに存在してた場所。