Existence *

「翔くんのお母さんが生きてたら、私も会いたかった。会って話したかった」

「……」

「美咲が好きになった翔くんを産んでくれてありがとうって、そう伝えたかった」

「…つか、それ俺のセリフっすよ」

「え、なに?」


思わず呟いてしまった言葉に、軽く首を振る。


「いえ、何でも…」

「来てくれて、ありがとう。私の思いが伝えられて安心してます。きっともう、私は話すことも出来なくなると思う。こうやって、話せる時に来てくれてありがとう。体力がまだあるうちに――…」


その言葉でハッと自分の意識が過去に引き戻された感覚になった。

そっか。

そっか。

そうだったんだ。と、今更ながらに気付いてしまった。


翔、元気にしてるの?

病院に行くたびにそう俺の事を気にかけてくれていたお袋が、突然何も話さなくなっていった。


金。とだけ言った俺に言葉も交わさずに笑みを浮かべて、お金だけ渡して――…

俺に話したくなかったんじゃなくて、もう体力がなくて話せなかったんだと今更になって分かった。


美咲のお母さんのその言葉で――…

なのに俺は…


「…っ、」


思わず俯いて目を閉じながら深く息を吐き出す。

もう、そんな事、言わねぇでくれます?

もう、それ以上は何も聞きたくねぇわ。


「翔くん、美咲の事よろしくね。私の分、そして翔くんのお母さんの分まで幸せになってね――…」


そう言ったお母さんの瞳から涙が伝った――…


帰り際に美咲のお母さんがお墓の場所を伝えてきた。


「って、そんな所に見に行ける訳ねぇだろうが」


車に乗ってそう呟き、俺はタバコを咥え火を点けた。

窓を開け、そこからゆっくりと流れていくタバコの煙を見つめながら深く息を吐き出す。


もう、ほんと、色々思い出させてくれる場所だな。

次から次へと舞い戻って、戻れない過去に戻ってきたような感覚。


ほんと、二度と忘れんなって言われてるみたいに…