Existence *

「いつかはこの問題に触れなければならない時がくる」

「……」

「それが早いか遅いかであって今、私はあなたにしか頼める人が居ないの」

「……」

「それでね、翔くん…」

「はい?」


俯く俺はお母さんの声で視線を上げる。

そのお母さんの瞳が悲しそうに笑った。

そして淡々と話している口調は、しんどそうで必死で呼吸をしているようにも見える。


「翔くんはもう分かってると思うけど、私はもう1ヶ月も生きられない」

「……」

「あの子…美咲には言えないんだけど、私のお墓を用意してるから、そこにお願いします」

「…え?」


咄嗟に下げていた視線を再びお母さんに戻す。

いま、なんて言いました?


「お墓なんて当たり前にないし、美咲はきっと何もしないしから…」

「……」

「知り合いにね、頼んで作ってもらったの。こんな事、美咲になんて言えないでしょ?」

「……」


悲しそうに笑って言ってきたお母さんの話があまりにも重たすぎた。

重すぎて返す言葉すら何もない。

まさか、こんな話をされるなんて思ってもみなかったし、こんな事、俺の口からも美咲に言えるわけがない。


「最後の私の任務かな…」

「……」

「ホントはね、もっともっと生きたかった。美咲を残して死ねないって思ってる」

「……」

「もっと美咲と話したかった。もっと、もっと。そして翔くんともいっぱい――…」

「……」

「でも、自業自得だから仕方ないと思ってる。あの子の為に必死になってきた罰だよね。ゆっくり休みなさいって言う宣告を無視して働き続けたのは私だから…」

「……」

「ごめんね、翔くん。こんな事言って、ごめんね。そんな顔しないで――…」

「……」


俯く俺の手をそっと掴んできたお母さんの手があまりにも冷たかった。

もう、なんも言葉が出てこない――…


――…百合香がね、亡くなる前に言ったの。翔くんを残して死ねない。って。

――…だから生きたい。って。


また沙世さんに言われた言葉が駆け巡る。

ほんと、ここに来たら色んなことが蘇って来る。