Existence *

「貰ったって、あの有名パティシエの店のん?」


電話を切ったルキアさんに視線を送る。


「そうそう。ここ来る前に久しぶりに会ったら、やるわーって言われて。めっちゃくれんねん。俺もそんな食べられへんしな」

「めっちゃって…」

「10個くらい貰った」

「は?貰い過ぎじゃね?」

「宣伝しといてーって言われたわ」

「宣伝も何も、むっちゃ有名すぎて買ねぇやつっしょ?」


確か、買うだけに2~3時間は並ばないと買えないって聞いたことがある。

そこのオーナーと知り合いあって…


「そうやねん。俺、並ぶん嫌いやから行かへんけど」

「またすげぇ人とお知り合いで…」


苦笑いしながらタバコの煙を吐き出すと、「お前もな」と返してくる。


「俺、そんな人いねぇっすよ」

「あのー…ほらあの人。キャバとスナック経営してるママ」

「あー…沙世さんの事?」

「そうそう。と、その旦那」

「凄いとは思うけど、もー…あれは身内感強すぎて俺の中での特別感って全くない」

「ははっ、身内感てか」

「いや、マジ身内感っしょ」


ハハッと笑ったルキアさんの後方から一台の真っ黒のセダンが近づいて来る。

その俺達の横で停まった瞬間、運転席の窓が開いた。


「ルキアさん、俺すんげぇ忙しかったんすけど」

「悪い悪い」


笑いながら流星が差し出してきた箱をルキアさんが受け取り、それを俺に渡してくる。


「どーも」


そう言ってルキアさんから箱を受け取った。


「だから車で行ってって頼んだのに」

「んな事したら酒飲めへんやん」

「いや、俺もこの為に飲んでねぇんすよ。つか、翔が取りに来たらよかったんじゃね?」

「は?意味分からん」


タバコを咥えたままそう呟き、思わず顔を顰めた。


「だってお前、酒飲まねぇだろうよ」

「普通に飲んだわ」

「流星悪いなぁ…店忙しかったら翔に頼め。手伝ってくれるわ」

「そうそう。この前、手伝ってくれたんすよ」

「お前が言うからだろうが」

「また頼むわ」

「もう手伝わねぇよ」


素っ気なく返す俺にルキアさんはクスクス笑う。


「ついでに乗せて帰って」

「そうだろうと思ってましたけど…」

「店で飲み直すわ。…翔も来る?」

「いかねぇよ」


フッと笑うルキアさんは軽く手をあげ、「またな」そう言って流星の車に乗り込む。

その車が立ち去った後、俺は短くなったタバコを灰皿に押し潰し、足を進めた。