Existence *

「ここには居ねぇよ。どした?」

「7番のお客様が怒って帰ったんすけど」

「はぁ?なんで?」

「わかんねぇっす。多分、待たせ過ぎで帰ったかと…」

「その担当は何してんの?」

「他のお客さん接客中です」

「いやいや、そいつに耳打ちしてこい。帰った姫、追っかけて来いって。絶対怒ったまま帰らすなって」

「わかりました」


慌ててこの場を去り、俺は深いため息を吐き出す。

ほんと、なんで俺こんな事してんのって思うくらい。

つか、そもそも社長は何してんだって話。


早く来いよ、なんて思ってると背後からクスクス笑った声が耳を掠め、俺は思わず背後に視線を送った。

その先に見えるのは社長で、俺と目が合った瞬間、更に笑みを向けた。


「遅いっすよ、まじで」


顔を顰め、苛々気味に思わず呟いた俺に社長は、


「様になってんなぁ…」


なんて笑いながら言う。


「は?どこが?つか、いつから居たんすか?」

「ちょっと前から」

「いやいや、この状況分かってます?見てる場合じゃないっしょ」

「お前のな、熱い指導で割り込めなかったわ」

「そもそも俺、こんな事しに来たんじゃねぇのに。誰の所為でここに来たと思ってんすか?」


手を動かしながらため息交じりに呟き、溜まっていた全てのオーダー表を捌ききった後、俺はもう一度、部屋に戻りソファーに腰を下ろした。

目の前に社長が座るのを見ながら、俺は箱から取り出したタバコに火を点ける。


「そんな事言うなよ。俺はお前に会いたかったよ」


微笑んでくる社長に俺は首を傾げ、顔を顰めた。


「いや、俺は別に…」

「おい、そんな事言うなや」


苦笑いで言葉を返す社長に笑いながら口を開く。


「流星から何度も聞いてるっしょ」

「聞いてる。だけど話がしたくて」

「話って、何もないっすよ。流星から聞いてる通りですよ」

「まぁな。分かるよ、お前の言いたい事は」

「だから辞めるのに認めてくれたんすよね?今更戻る意思とかねぇんすけど」


顔を顰めて、タバコを口にする。

煙を深く吸い込みながら、見つめて来る社長から視線を外した。