そうして手紙の内容はメアリーを通じ、ハンスとマーサにも共有された。
「私はこの結婚良いと思います。少し年上だし、娘さんもいるけれどこんな手紙を書ける人はいい人です。間違いなく!」
 というマーサの力強い一言で私の方針は決まった。
 まず、最低限の荷造りと料理長やコック、ハウスメイド等に紹介状を書いて暇を出す。
 みんな長く仕えてくれてありがたいが、一緒に隣国に嫁ぐことは出来ない。
 なので、使用人たちには隣国に行くことを正直に話し幼いころからの仲良しの令嬢の家へと紹介状を書いた。
 その紹介状にもこれが使用人と共にそちらの家に行く頃には私は隣国の辺境伯に嫁ぐために国を出ていること。
 できれば早々にゴートダム王国に見切りをつけて他国へ行くことを勧める旨をしたためた。できれば使用人を一緒に連れ出してあげてほしいことも。
 私の仲良しな令嬢のお家はみんな商会を持っていて他国にも支店を出しているお家なので移住可能と見こしての判断だった。
「本当に、うちのお嬢様は賢くて先回りのできる大変ご立派なご主人様です。ついていけないのが悔やまれますが。マーサさんにメアリーさんにハンスさんが一緒だから大丈夫ですね。幸せになるんですよ!」
 とは一番年かさのメイドが我が家を一斉に片付けて、売れる物を換金するためにローレル商会を呼び出したところで言われた言葉だ。
 優遇するという言葉をここで使うつもりで、呼びつければ会長のゴメスさんがやって来た。
「さぁ、ここにあるものみんな買い取ってくださいな。みんなの暇の賃金と旅費にするのでね」
 私の一言に、ピクリと反応するもののあえて突っ込まずにゴメス会長は商会の腕利き数人で一気に査定していく。
 そして査定を終えると、即金で金貨で七百枚用意してくれた。
 いっても五百枚くらいだろうと思っていたのでだいぶ多い。
「私が話した情報先のメイレール王国に行かれるのでしょう?連れて行くのは執事と侍女頭と専属侍女の御一家で他は他家に出されるのでしょう?何名かはうちでも受け入れ可能ですよ。本店をゴーラル帝国に移すことをご理解いただければ」
 どうやらこの呼び出して私が国を出ることを察したらしい。
 なのでローレル商会はゴートダムに見切りをつけて私が行くのとは反対の隣国、ゴーラル帝国に行くようだ。
「私、実家がゴーラルに近い辺境なので、そちらだと助かります」
 メイドの数人がそう言って、ローレル商会へと移ることになった。
 そして、皆に暇の賃金を配り終わると私たちも飾りを外した大人しい馬車でメイレール王国辺境グロウレンス領を目指して静かに旅立った。
 邸についてもローレル商会が請け負い、売りに出しておいてくれてのちに私の口座にお金を振り込むと約束してくれた。
 育った屋敷に愛着はあるが、それでも父や継母やアレクシアとの嫌な思い出もあるのでここでいっそ手放すのが良いのだろう。
 母も、最期に言っていた。
「フィアラが幸せになれるところがあなたの居場所。ここじゃないと思ったら潔く旅に出なさい。きっと世界は広いから良いところはいっぱいあると思うわ」と。
 きっとこの一言が無かったら、離れられなかったかもしれない。
 母は最期まで私の幸せを願ってくれたかけがえのない人である。
 母の墓参りが出来なくなるが、それでもそんな一言を残した母なら許してくれると思う。
「行ってきます、お母様」
 こうして私は新たな場所へと向かうのだった。