そうして父たちを無事に邸から追い出すことには成功した。
「ようやく、我が家が平和になったということかしらね?」
 そんな私の呟きに新しいお茶を持ってきていたメアリーは言う。
「そうですねぇ。大きな問題だった膿一家を叩き出せたのは僥倖にございました。でも、私は国王陛下の遅すぎる対応にも怒っておりますよ」
 そうよね、そもそもこの国の豊かさの根源たるフランゼ家の娘を二代立て続けに不幸にしていたのの根源は王家ゆかりの縁談で結婚させられた母から始まるのだから。
 母も、祖母から受け継ぐまで今までの豊かさに胡坐をかいている王家の感覚にはイラッと来たらしい。
 それでも、次世代につなぐべく婿入りをしてくれる相手を探していたので王家の推薦ならと受け入れた。
 おバカなボンボン侯爵子息と知っていたら、確実に断っていただろうと母は亡くなる数日前に私に語っていた。
 5歳の私にである。
 それだけ頭を抱えるほど父は頼りにならない夫で父だったのだろうことは、その後自分の身をもって証明済みだ。
「そうね、夜会での様子や茶会での様子など聞こえてきそうなものなのに社交デビューから二年。何もしてくれず、こちらが動いてやっと対応してくれたと言ったところだものね。それも、今更感の強いこと」
 そう、流石に私がこの国を出たらこの地は500年前の不毛の大地に戻るだろう。
 自然に愛される娘とは四大精霊に好かれている娘だということ。
 代々、フランゼ家の娘は精霊たちに愛された、ゆえに国は自然豊かで肥沃の大地に変わったのだと言われている。
 実際、初代のフランゼ家の娘が産まれてからたまに不作になることはあっても基本豊かだった。
 不作の時は夫が不倫してたり、子どもが亡くなってしまったりという不幸があった時だ。
 それ以外は基本フランゼ家の娘が居る限り、ゴートダム王国は肥沃なまま過ごしてきた。
 ここ15年ゆっくり不作になり改善されないまま現在に至っている。
 それはそうだ、だって母も不幸、母を亡くした私も不幸では改善しようがない。
「そういえばね、父が嫁ぎ先にと打診していたグロウレンス辺境伯からお手紙が届いたの。あちらの方がよっぽど我が家のことをご存じだったわ」
 私はその手紙を見せるようにメアリーに渡す。
 メアリーは受け取るとそれを読み始めては、頷いている。
「確かに、よっぽどグロウレンス辺境伯様の方がフランゼ家をご存じですね。いっそ嫁がれては如何です?この手紙を書く方なら信頼できると思います」
 メアリーすら納得の手紙の主たるグロウレンス辺境伯は、飾らずかつそれでもこちらのことを考えた返信をくれた。
 きっと父の婚姻打診の手紙はぶしつけだっただろうと思うのに。
『フランセ次期女伯爵様へ
  貴殿の父君より婚姻の打診を受け取りました。
  貴殿はゴートダム王国では非常に重視されるフランゼ家の女伯爵予定であると認識しております。
  この打診は、父君の暴走によるところと見受けます。
  しかしもしも次期女伯爵が爵位を持ってなおゴートダムに居たくないという心持であれば、逃げ出す先としてこの婚姻を上手く使うことをお勧めする。
  こちらは後妻になってしまうこと、4歳の娘が居ること。
  それを承知いただけるのであれば、後妻を取れとうるさい家臣を鎮められるので助かります。
  ご必要な際は一言、簡潔にグロウレンスへ向かうと下されば歓迎いたしましょう。

                                   グロウレンス辺境伯 ヴィーエルス・グロウレンス』
 実に簡潔かつ分かりやすい手紙だった。
 実直で真面目で、きっと思いやりもあるだろうことは窺える。
 そして国を出るときは大急ぎで手紙を長々書くことが出来ないであろうことも、察してくれている。
 優秀な方なのだろう。