そうして、私が父と話している間にも継母とアレクシアの荷造りは終了したらしい。
 メイドたちが荷物を持ってサロンに顔を出した。
 もちろん父の荷物はもっと早くにハンスが持ってきている。
「これが、オロレアンさんとライリーンさんとアレクシアさんの荷物です。さぁ、荷馬車をご用意したので早々に出立を」
 これはハンスが荷物が揃ったところでにこやかに声をかけたのだ。
「私は妊婦なのに、荷馬車に乗れというの?!」
 それには私はニッコリ一言。
「一般の平民はみんな荷馬車を改良した辻馬車での移動よ。あなたは平民なのだからそれで十分でしょう?」
 私の一言にキッと睨みつけるも、現在平民と女伯爵では地位にかなりの格差があるのは間違いない。
 ここで一度でも手を出せば、アレクシアはお腹の子どもともども処刑されてもおかしくない。
 それぐらい貴族と平民には隔たりがあるのだ。
「だから、私は!」
「言ったでしょう?フランゼの名は本来名乗れるものじゃないって。精々があなたの母親のローレル準男爵令嬢ってところよ。多分すでにあなたの母親共々、除籍縁切りされていてもおかしくないけれどね」
 私の言葉に今度はライリーンが目をむいている。
「なんで私が実家から除籍、縁切りされるのよ!」
「継子であり女伯爵になるはずの私を、虐げていたことを虐げられていた本人から聞いたからでしょうね。あなたのご実家は大きな商会ですもの。醜聞は商いに影響するでしょう? そんな醜聞は困ると言っておられましたよ」
 まぁ、今後社交界に出入りすることも叶わなくなるのだから本人たちにはそんな醜聞も耳にすることは無いかもしれないけれど。
 ご実家は大商会のローレル商会だし、そちらとしては貴族との取引がなくなるのは困るだろう。
 私が手紙を送ると、即刻除籍と縁切りした証明書の写しを送ってくれて迷惑料としてフランゼ家との取引の際は優遇すると約束してくれたので、今後もお付き合いを続ける予定だ。
 ライリーンは性格に難ありだったけれど、商会長でライリーンの父であるゴメス会長は良い人なのだ。
 娘の子育ては失敗したとしきりに反省していたが、致し方ないだろう。
 最前線で商いを繰り広げていた凄腕商人なのだ、娘の教育は妻任せ。
 妻は子爵家で育ったお嬢さんでほわほわしていたらしいし、娘可愛いで育てたというのは有名だったから。
 私はもっていた写しをライリーンの前に差し出してあげた。
 私が持ってる必要もないし、これは原本ではなく写しだから。
「本当に、除籍、縁切りされているなんて……」
 ご実家に今までの私への待遇が伝わらないわけがない。
 実は、隣国への辺境伯への嫁入り話はローレル商会の会長であるゴメスさんが掴んできて教えてくれたことだ。
 商人だけあって情報は鮮度と確実性が大事。
 それを掴んでどう使うのかも、商人としての腕だ。
 そして、今回その相手に選ばれたのは実の娘ではなく私だった。
 それが、結果である。
「とりあえず、王都の中央広場までは送って差し上げますから。その後は皆さんご自身でお考え下さいね。当家は一切関知いたしませんので」
 えぇ、父とも縁切りした今完全に他人です。
 なのでここを出た後どうすれば?って知ったことではありません。
 13年優しさの無かった相手に優しくすることは、私には出来ません。
 そこまで人間出来ていませんので。