私の婚約者はコーネイル侯爵家の三男でレイゼロードという。
 正直に言おう、この男も父と同じくダメ男である。
 領地経営を覚えてくれと言っても、女伯爵になるのは私だからと言ってまるっきり勉強する気のない態度で、しかも婚約者としての定期的な顔合わせで伯爵家に来ると私より先に妹のアレクシアと親密に寄り添って話しているのである。
 もはや妹の婚約者では?という状況だが両家の約束のため今の伯爵令嬢の立場では婚約破棄も婚約白紙にも持っていくことが出来ない。
 おバカボンボンと夫婦になるつもりが毛頭無い私としては二人が大きな問題でも起こせばいいのにと内心思っている。
 今日も執務室で領地の報告を確認しては、その後の指示を書き連ねた書類を執事に託す。
 使用人の解雇だけは中継ぎの伯爵である父には権限が無く、母の時代からの使用人が残ってくれているのが唯一の救いである。
「フィアラお嬢様。今日もお嬢様を無視した婿殿はアレクシア様のお部屋に向かいました」
 心底嫌そうに報告してくれるのは私のたった一人の専属侍女マーサ。
 マーサは執事のハンスと侍女頭のメアリーの娘で私より三つ年上の女性である。
 実質アレクシアとよりマーサとの方が姉妹のように過ごしてきた。
「あら、そろそろ本格的な問題発覚になるかしらね?」
 アレクシア付きの侍女とメイドからは既に二か月月の物が遅れている報告は受けている。
 実質仕事をして伯爵家を切り盛りしているのは次期当主の私。
 家の大事な報告は父ではなくわたしの元に届く。
 その中から選んで伝えてもいいことしか父たちには話していないし、アレクシアのドレス代は基本父の私財から出しているので、そろそろ底が尽きる。
 もう、贅沢は出来ないし今後は爵位を継承次第、母亡きあと家族ではなくなってしまった父と継母と妹はフランゼ家と一切無関係なので追い出す準備を進めている。
「さて、どうするのかしらね」
 一応、父がこの家を乗っ取る術も残ってはいるが全く仕事をしない父がそれをできるとも思えない。
 そうなった時はゴートダム王国が終わる時だ。それが無くてもすでに国にも見切りをつけ始めているので終わるかもしれない。
 今の王家は隣国対応にかかりきりで、国の豊かだった自然の衰退の原因であるフランゼ家の娘の不幸に気づいていないのだから。
 国ごと父たちも滅べばいいのである。
 この自然の衰退は母に父を娶わせ不幸にした事から連鎖しているので、母の結婚を決めた王家の失態でもあるのだ。
 なのでこのいびつな家族環境で育ち家を維持しつつもあきらめの境地に達している私は、家も王国も滅んでしまえばいいが正直な気持ちだった。
 そんな私の気持ちは自然を愛する者たちにしかと伝わっているので、ゴートダム王国の自然の衰退は待った無しなのである。