この食卓はいつでも私以外で賑やかだ。
「お父様、今日は私観劇に行きたいの。いいでしょう?」
 そんな声に父は温かみのある声で答える。
「もちろんだよ、アレクシア。お前は立派な伯爵令嬢なのだから」
 なんて答えているが、それはただの後妻の子であり父との血の繋がりはあれどフランゼ家の血筋ではないので正式な伯爵令嬢ではないことをきっと誰も認識していない。
 父自身がただの中継ぎでしかない婿入りの伯爵であり、フランゼ家の跡取りだったのは私の母である前フランゼ女伯爵である。
 母が亡くなり二年と経たずに後妻のライリーンとその娘を邸に招き入れ、私の存在を薄くさせた。
 事実、現状フランゼ家は乗っ取られたのと同義だ。
 私自身が結婚し、女伯爵にならなければ実権を握れないのだから。
 父と母は政略結婚だったから、実際愛もなにも無かったのだろう事は窺えるが……。
 父はフランゼ家の成り立ちを知らない。
 
 ここゴートダム王国は自然豊かで実りの多い国である。
 その自然に愛される理由はフランゼ家の娘が代々自然に愛される娘だから。
 その娘が幸せに暮らすことが、ゴートダム王国の豊かさに繋がる。
 それを知っている王家は、常にフランゼ家の結婚やその家族の幸せには敏感であり、不遇を許さなかったがここ十年近くは近隣国との緊張や、小競り合い、自然の衰退の対応に追われて疎かになっていた。
 フランゼ家の様子を知り愕然とする。
 フランゼ家の本来の跡取りを冷遇し、あまつさえ婚約破棄してその相手は何のうまみも無いフランゼを名乗ることも出来ない義理の妹と子を成しフランゼ家を継ぐと言い出した。
 しかもそれを現中継ぎでしかないフランゼ伯爵が進めようとしたのを見て王家は事態を重く見て一気に動き出す。
 それは既にいろいろ諦めて、すっかり冷めきったフィアラには遅かったと言わざるおえない。
 なにせ、フィアラの不遇に怒った自然が手のひらをゆっくり返しているからこその自然衰退なのだから。

 愚か者たちは、国を破滅させかねないことを全然分かっていなかった。
 それはやはり、愚かだからなのだろう。

 自身の家族を見ながら、これが家族であることに意味を見出せないフィアラは今日も静かに家族より少なく粗末な残り物を食べてすぐに食堂を後にする。
 そろそろ、この国の爵位継承問題に疑問を投じても良いのかもしれないと思いながらもいっそ何なら滅びてしまえばいいのにと自虐の心も持ち合わせながら。
 フィアラは今日も、この家族を養うために働くしかないのだった。
 次期女伯爵として実質、家を切り盛りして回しているのはこのフィアラ自身なのだから。