ハイヒールの魔法

 その時だった。

「瀬名先生!」

 突然呼び止められ、驚いた様子で振り返ると、制服を着た女の子に抱きつかれる。

「びっくりした。なっちゃんだったのかぁ。学校帰り?」
「うん、そう。瀬名先生が見えたからつい声をかけちゃったけど、もしかして急いでる?」

 七波(ななは)は小学生の頃から瀬名の病院に通っている患者で、よく喉を痛めて声が出にくくなるたも、常連のようにやって来ては瀬名に懐いていた。

「そうなの。今日友だちの結婚式があるから、急いで身支度しなきゃいけなくて」
「大変! 引き止めちゃってごめんね! でも瀬名先生のドレス姿見たいなぁ。今度写真見せてね!」
「えっ、あっ、うん、今度ね……」

 七波と別れ、とぼとぼと歩きながらコンビニに入り、ストッキングの棚の前で大きなため息をついた。

 今日は履き慣れたスニーカーではなく、何年かぶりにヒールの靴を履く。また何センチ背が高くなってしまうんだろう。

 こんな自分みたいな可愛くもない女のドレス、見せたところでどうせからかわれるだけよ──そう思うだけで悲しくなる。

 自分を好きになりたいけど、自分自身の好きなところがわからない。

 誰かが教えてくれたらと思うのに、きっとその言葉を信用出来ない卑屈な自分もいる。

 この性格は一生このまま変わらないに違いない。そう思うと、未来を悲観的にしか捉えられなくなった。

 でも私には仕事がある。なっちゃんみたいに慕ってくれる子だっている──その子たちの思いに応えるのが自分自身の幸せだと思えば、幾分か心が軽くなるような気がした。