ハイヒールの魔法

「今までの私は出会いに消極的で、本当は結婚はしたいけどそれを隠して生きてきたの。だからこんなふうになるとは思わなくて驚いてる」
「なるほど。俺は逆に出会いに積極的だったのに、上手くいかなくてイライラしてた。実は土曜日も合コンの後だったから、かなり不機嫌だったんだよ」

 出会った時にはそんなことは言っていなかった。だがあの時の苛立った様子を思い出せば、自然と腑に落ちる。

「そんな時にヒールをぶつけちゃったんだ。それは怒るよね。ごめんなさい」
「全然。そのおかげで瀬名に出会えたからね。あの時あの場所で合コンがあったことを感謝してるよ」

まるで二人を引き合わすかのように飛んでいったハイヒール。たまたま徹平の元に飛んでいくなんて、あまりにもタイミングが良すぎる。

 まるで奇跡が起きたかのように二人を繋いだハイヒールには、何か魔法がかかっていたに違いない。

「あのハイヒール、一生大切にしないと」
「あはは! 足を向けて寝られないね」
「履くのも申し訳ないくらい」
「でもまた履いてほしいな。二人を繋いだ大事な靴だしね、見るたびに拝んじゃないそうだ」

 二人はクスクス笑い合うと、手を繋いでうどん屋まで歩いて行く。

「今日の瀬名、この間とはまた違った印象で可愛いね」
「……あ、ありがとうございます。徹平さんのスーツ姿も素敵ですよ」

 こんなに直球で、心臓がもつかしら──でもこのドキドキこそが、恋なのだと実感する。

 今まで悲しい出来事ばかり続いていた二人に、壊れたハイヒールがかけてくれた特別な魔法。

 それは荒んでいた心をあたたかく包み込み、ずっと求めていた優しい愛で満たしてくれる相手と出会うきっかけを与えてくれた。

 運命のような偶然の出会いを育んでいくのは自分たち次第──この時間が、このドキドキがずっと続いくことを、瀬名は心の底から願った。