ハイヒールの魔法

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 裏口から外へ出てから病院の入口に回ると、スーツ姿の徹平を見つけた瀬名は、土曜日の夜に出会った彼とのギャップに頬が熱くなるのを感じた。

 スマートフォンを見ながら壁に寄りかかっている徹平は、明らかに仕事が出来る社会人という印象で、私服の時とはまた違う魅力を放っていた。

 瀬名が来たことに気付いた徹平は、スマートフォンをしまい、にこやかに笑いながら手を上げた。

 製薬会社の営業と言っていたし、きっとこの笑顔は必須アイテムなんだわ──そう思いながらも、今彼の笑顔と視線が自分だけに向いていることに喜びを覚える。

 なんだかくすぐったい気持ちで徹平の元へ近寄っていくが、ドキドキが止まらず、息が苦しくなっていく。

「お、お待たせしました」
「そんなに待ってないから大丈夫」

 徹平はそう言ってから、何故かクスクスと笑った。

「さっき看護師さんに見つかっちゃったんだけど、みんな気になって仕方ないみたいだね」

 彼が病院の方を指差したので驚いて振り返ると、入口のドアのカーテンの隙間から、看護師たちがニヤニヤした表情でこちらを見ている。

 顔を真っ赤にして口をあんぐりと開けたが、その瞬間徹平に手を引かれたため、瀬名の心臓が大きく飛び跳ねた。

「これからは俺との時間だよ。それにほら、一応初デートだし。仕事のことは忘れて楽しもう」

 自分の中に芽生えた感情に胸がキュッと締め付けられ、これが恋なのだと実感する。

 つい頬が緩むと、それに気付いた徹平に顔を覗き込まれて体をビクッと震わせた。

「どうしたの?」

 あんなに男性との関わりが怖かったのに、彼に対してはその感情が湧き起こることはないのだ。互いに同じ痛みを知るからこそ、徹平に対しては壁が取り払われ、素直になれるのだった。

「なんだかね……不思議な偶然だったけど、徹平さんと知り合えて良かったなって思って」
「えっ、すごく嬉しいけど、いきなりどうしたの?」

 自分の言葉を『嬉しい』と言ってもらえ、瀬名は恥ずかしそうに俯いた。