ハイヒールの魔法

「今日の先生、めちゃくちゃ可愛いから、きっと相手もメロメロだと思うなぁ」
「メロメロ⁉︎ 私に⁉︎ そ、それはないですよー」
「何言ってるんですか! もっと自分に自信を持ってください」
「そうですよー。先生はむしろ美人さんの括りでいいくらいなんですから」
「……それは言い過ぎかと思いますけど……」

 そんなふうに言われると、おしゃれをしたことが急に恥ずかしくなる。そして服を隠すように縮こまった時、扉の鍵を閉めに行っていた看護師が、興奮した様子で診察室に飛び込んできたのだ。

「先生!」
「な、なんでしょうか!」
「あのっ、スーツを着た男性が、外で瀬名先生が来るのを待ってるって言ってますけど!」

 スーツを着た男性で瀬名を待っている男性といえば、一人しか思い当たらなかった。

 座っていた椅子から勢いよく立ち上がると、瀬名はいそいそと白衣を脱いで、机の下に置いておいたカバンを取り出す。

 その行動自体が看護師の言葉を肯定していることに、瀬名は全く気付いていないようだったが、カバンに荷物を入れると、いそいそと従業員用の裏口へと向かう。

「じゃ、じゃあ私はこれから用事があるから、お先に失礼しますね! お疲れ様でした!」
「えっ、先生⁉︎」

 看護師たちの声などまるで聞こえていないかのように、瀬名は脱兎の如く病院から飛び出した。