ハイヒールの魔法

「キスしていいですか?」

 徹平は真面目な顔でそう口にすると、瀬名に顔を近付ける。驚いた瀬名は、慌てて自分の口を両手で覆った。

「い、いきなり⁉︎ な、なんでですか?」
「さっき会ったばかりなのに信じてもらえないかもしれませんが、三木谷さんのことが好きになりました」

 こんなことを言われたのは初めてで、嬉しくて涙が出そうになる。それでも心のどこかでは否定的な自分がいて、全てを肯定して受け取ることが出来なかった。

「わ、私なんか……男と間違われるような人間ですよ……」
「関係ありません。カッコよくて可愛いなんて、三木谷さんは俺のタイプど真ん中なんです」

 頬が熱くなり、徹平を直視出来ずに顔を背ける。

「……か、可愛いなんて、初めて言われました……」
「初めての可愛いも、言われて照れる三木谷さんも、俺が初めてってことですね。良かったです」
「やめてください……! 恥ずかしいです」
「もし嫌なら言ってください」

 徹平は瀬名の手を取り、口元からそっと離した。

 心臓が高鳴り、耳にまで音が響いてくる。喉がカラカラに乾いていくのを感じながら、瀬名は言葉を絞り出した。

「嫌では……ないです……けど……、そういうのって、する前に確認するものなんですか? その、漫画や小説だと……自然な流れというか、目が合ってとか……」
「まだ付き合っているわけじゃないので、ちゃんと同意が欲しいんです。三木谷さんが彼女になってくれるなら、これからは自然な流れでキスしますから」
「えっ……」

 二人の視線絡み合い、どちらからともなくキスをする。

 呼吸を忘れてしまうくらいの緊張感。体を包み込む満たされたような温かさ。

 終電を逃したからこそ見えた景色と、感じた鼓動と、触れ合う熱と熱。

 唇が離れると、徹平は瀬名に笑顔を向けた。